※ネタバレ注意 ※ 1回きりの観劇なのでセリフなどうろ覚えの箇所多々あり
舞台『明るい夜に出かけて』を観た。
会場が下北沢の本多劇場だったので、開演前に今野担のフォロワーさんと待ち合わせてカレーを食べた。下北沢はカレーで有名なお店がたくさんある。
シモキタはカレー屋以外にも古着屋、ライブハウス、小劇場が立ち並び、サブカルチャーの街として知られている。『明るい夜に出かけて』のキービジュアルの雰囲気と、下北沢の土地の雰囲気が見事にハマっているなと思った。
入場してトイレに並んで、自分の座席についた時には前説が始まっていた。初めて生で見たアンガールズの山根さんは、ただでさえ背が高いのに、ものすごく痩せているのでさらに細長く見えた。
山根さんが「今野くんと初めて会った時はこの子大丈夫かな、僕が言うのもなんだけどちゃんと食べてる?って思ってた」と言ったので、そういえばジャニーズJr.カレンダーの身長と体重で計算した彼のBMIは16を切っていたなと思い出した。
山根さんは「今野くんが舞台を通して成長してるんですよ」と褒めてくれて、前説が終わった。
キービジュアルでは金髪だった今野くんだが、舞台では黒髪になっていた。さらにはメガネもかけていた。2.5次元のようにあらかじめキャラクターデザインがはっきりしている舞台と違って、キービジュアルと本編のビジュアルが違うのは舞台あるあるだ。『明るい夜に出かけて』の前日に観劇した『ルーザーヴィル』もそうだった。(1個前の記事がルーザーヴィルに行った日記なのでそちらもぜひ。)
『ルーザーヴィル』は舞台上の情報量が多い作品で、それもそれで楽しかったのだが、シンプルでまとまった『明るい夜に出かけて』の後に見たら疲れてしまっていたかもしれない。我ながら良いスケジュールを組んだ。
今野くん演じる富山は、大学を休学してコンビニで夜勤アルバイトをする20歳。深夜ラジオの熱心なリスナーで、ハガキ職人をやっている。
「猫背に注目してください。あと首も」とフォロワーさんに教えてもらったので、富山が横を向いた時にじっくりと見てみた。いかにも体に悪そうな姿勢で、なるほどこれは確かに”富山”感がある。
もしも『大学を休学してコンビニで夜勤アルバイトをする20歳。深夜ラジオの熱心なリスナーで、ハガキ職人』の姿勢が美しかったら、ちょっと面白い。
富山は人と関わるのが不得意で、友達も少ない。人に触られることを恐れ、そのせいでバイト中にトラブルを起こすこともある。
私は結構人と関わるのが好きだから、初めは(富山は生きづらそうだな……)と遠くから眺めるような気持ちでいたのだけれど、富山の過去のトラウマが明かされた時、自分にも若干思い当たることがあった。
富山には付き合っていた彼女がいたのだが、大学生カップルなのに体を重ねるどころかキスもできず、とにかく接触を拒否しつづけた。その結果、別れた彼女の友達によってネットに個人情報を晒されてしまう。
自分語りを開催すると、私にはかつて仲のいい異性の友人がいて、毎月のように2人で遊んでいた。
ある日「一人暮らしを始めたから遊びに来てねー」と言われた時にさすがに家に2人は……と思って忙しいからみんながいる時行けたら行く、と答えてしまった。そっかーとLINEが返ってきた。
彼が私のことをどう思っていたかは知らないが、もし好意があったなら振られたようなものだし、好意が無かったら無かったでこれまでさんざん2人で遊んできたのに急に距離取られたら残念だろうなーと思った。
結局家には行っていないし、私がいつまでもオタクをやっているせいで金銭感覚がズレてきたということもあり、今では疎遠になっている。
私の場合、相手は男友達であって交際相手ではないからちょっと違うんだけれども、異性との関わりにおける一種のめんどくささだったり、相手の求めるものにこたえられない罪悪感だったりには覚えがあった。
今野くんの演技はナチュラルでさらさらとしている。というと味気ないように聞こえるかもしれないけれど、そうではなく、自然体でべたついた感じがしない。作風の与える影響はあるにしても、アイドルとはかけ離れたキャラクターをここまで演じられるのは本人の素質だろう。
佐古田を演じた伊東蒼さんは演技が上手すぎて、演じたというよりも本当にそこに佐古田がいるようで。落語がテーマの漫画『あかね噺』で「客に上手いと思わせるうちは二流」というセリフがあって、伊東さんはまさしくそれだった。
終演後に「初舞台らしいですよ」とフォロワーさんに教えてもらったので一体何者なんだと検索したら、ユマニテに所属していた。ユマニテは安藤サクラさんや門脇麦さんなど、とにかく芝居の上手い俳優が揃う芸能事務所なので納得した。まだ17歳ということで、今後が楽しみな役者さんだ。
佐古田はアルピーのラジオで特に面白いハガキ職人にしか与えられない「ベネディクト・カンバーバッヂ」を2回も貰う天才ハガキ職人で、学校の文化祭でも演劇部で活躍していて、とにかく感性が豊か。かつ人目をあまり気にしないようで、初めは蛍光ピンクのジャージを着ていた。学校で浮いているんじゃないかと富山が心配するのも頷ける。
そんな佐古田は先述した富山のトラウマを知った時に「富山は悪くない」と言ってくれたし、「付き合ったからってキスしなきゃいけないのか、一緒にいるだけじゃだめなのか」とも言ってくれた。優しいなと思う反面、若いなとも思った。
私は観客として富山を見守っているから富山をかばいたくなるけれど、現実問題、仮に友達が「付き合っている彼氏が何もさせてくれない」と相談してきたら友達に肩入れすると思う。
ただ、付き合っていた富山と元カノよりも、付き合っていない富山と佐古田の方がラジオを通して深いところで繋がった関係だったから、接触だけが全てじゃないというのも一理あり……すべては人間の三大欲求が性欲なのがいけないんだと謎の怒りを抱いた。
テニミュOBで、TRUMPシリーズにも出演している大久保祥太郎さんは、以前から私の中で芝居が好きな役者リストに名を連ねている。大久保さんはコンビニで働きながら歌い手として活動する鹿沢を演じていた。
富山がコミュニケーションを断とうと(ドン引きさせようと)わざとオタク全開の喋りを展開した時も、興味を持って聞いてくれるほどに優しい先輩。
大久保さんの芝居はとにかく惹き込まれる。別に好きな登場人物ではなくても、大久保さんが演じるとつい好きになってしまう。(鹿沢はいい人なので好きだけど)
優しいんだけど、優しすぎて人を傷つけてしまうような鹿沢さんは、変わり者の多いコンビニの中でもいちばん身近に感じた。
私は才能の話に弱い。(最近はまんまと『ダイヤモンドの功罪』にハマっている)
だから、永川の叫びが強く刺さった。深夜ラジオで投稿ハガキが読まれるか読まれないか。多くの人にとってはどうでもいいことでも、当事者にとっては一大事で。
読まれる人は何回でも読まれるのに、読まれない人はいつまでも読まれない。世の中にはいろんな才能があって、深夜ラジオでも「選ばれる/選ばれない」の線引きがある。
その悔しさと嫉妬と憧れとが入り混じった大きな感情にあてられて、ラジオに馴染みのない私まで苦しくなった。
永川は佐古田に富山の正体をバラしてしまうくらいデリカシーが無いようでいて、実はすごく寄り添ってくれる。人付き合いが苦手な富山と友達でいられるだけはある。
富山がラジオとコンビニを通してさまざまな人と関わり、だんだんと変化していく様は見ていて心が温まった。なにか劇的な事件が起きてガラリと一変するのではなく、根っこの部分はそのままで少しずつ変わっていく方が違和感なく受け入れられる。
本当はもっと色々書きたかったのだが、最後の方は尿意と戦っていたので記憶が薄い。天馬屋でドリンクセットを頼んだせいだ。素晴らしい作品だっただけに悔しい。トイレが近い人は現場前に紅茶を飲むのをやめよう。
おしまい。